娘と近所の商店街で買い物をしていた。

『おと~さん!ダメでしょ。お金払わなくちゃ!』

大きな声が聞こえてきた。
娘とそちらの方を見ると、60代の小柄な女性が70代の男性の腕を取っていた。

『今、お店の物、持って行ったでしょ。お金払わないと泥棒になっちゃうよ。』

夫婦喧嘩かと思ったけれど、どうもそうではないらしい。
男の人はお金を払わず品物を持って店から出ようとして、この女性に止められているようだ。

男性はうろうろっと、女性から離れようとした。

その表情・動きを見て、私と娘は顔を見合わせた。

 夫と同じ。

何と言ったらいいだろう、あいまいな表情、振り切って逃げるでもなく、方向の定まらない足取り。

  『あのおじさん、認知症なんじゃない?』
  『うん。お父さんと動きがおんなじ・・・。』


『事務所へ行きましょう。』
おじさんは、手を取られてみんなの見守る中、連れて行かれてしまった。
全く抵抗することもなく・・・。

後で、この女性はドラッグストアの万引き監視係りだったと、商店街の人に聞いた。おじさんが認知症だったのか、そうでなかったのか、どうなったのか、わからない。

でも、知らないそのおじさんに夫の姿を重ねてしまった娘と私はただ・・・悲しかった。
もう夫がひとりで街に出ることはないし、こんな目に遭うことはない。
でも、それは私たち家族が居ていつも守っているから。
あのおじさんには守ってくれる家族が居ないのだろうか・・・。



こんなこともあった。
スーパーの野菜売り場にいた時、80代に手が届いているだろうか、小柄なおじいさんに声をかけられた。

『あのぉ~奥さん、人参ってどんなのだったですかね。家内に買って来るようにと言われたんだけれど・・。』

そのおじいさんは手にメモを持っていた。
それはきれいな文字で書かれていた。

 人参、長ネギ、豆腐・・・

その上品な文字を見てこれを書いたであろう、ご婦人のシルエットが浮かんだ。
足を悪くしたご婦人はこのメモを夫に託した。
ご主人の認知能力が心もとないことを知っているけれど、他に方法がなかったのだろう・・・。
夫の帰りを心配しながら待っているに違いない。

そのおじいさんと一緒にスーパーを回って買い物を揃えた。
お礼を言って帰っていくおじいさんの背中に
『またね・・・』とつぶやいたけれど、その後会っていない。

認知症になっても安心して暮らせる街。
それは・・・どんな街だろう。

やがて私も年を取る。
私の老後、そこにもう夫はいない。


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コメント
初めて悲しくなりました
こんばんわ。

母の日でしたね。
私もカーネーションが欲しい~。なんてね。
うちも娘と息子がいるけど、なーんにもありませんでした。
まあ、毎年何もなかったから、いつもどおりの事なんですけどね。

悲しくなったのは、
>>私の老後、そこにもう夫はいない。

今まで私が病気になって倒れるわけにはいかないと切実に感じてはいましたが、夫が病気になって
自分の老後を思い描く事は思考停止していました。

私も夫より五才下ですが、加えて夫のこの病気。
ふっと悲しくなりました。

最近、夫は私のいない時、頼みもしない買い物をしたことがあって、驚いたことがあります。
極近くのお店だったのですが、買って来てと言われたからと言いますが、妄想です。
あわててレシートを確認してホッとしたりしました。

それからは、夫一人の留守番の時は「絶対外にでないでね。」と言うのが決まり文句になっています。そして夫の財布にも常に少しのお金を入れておかねばとも思いました。
ebosi さん、こんにちは、
このカーネーションは一応、娘と息子からということですけど、スポンサーは夫の兄なんです。私は『花よりだんご』派なので、子供たちからお花が届くことはありません。きっぱり。
(^^;)

仕事を辞めてから夫も一年ほど、ひとりで自由に外に出ていました。
本屋さんや図書館でしたけれど、同じ本を買って来たり、返しに行ったはずの本を持って帰って来たり・・・。
いろんな事がありました。
まだひとりでお出かけできるご主人さまの時間、大切にしてあげてください。


・・・悲しくさせてしまっようでごめんなさい。
診断を受けた頃、街に出て、高齢のカップルが仲良くお買い物をしていたり、けんかしていたり・・・

それを見る度に、『私にはこんな日は来ない・・・。』と沈んだ気持ちになりました。
ちょうど、ドラマの主題歌で平原綾香の『明日』が流れている頃で、

 ~ずっとそばにいると あんなに言ったのに~

聞く度、いっそう落ち込んで。

でも時間って凄いと思います。
5年経って、自分の置かれた状況に今はもう慣れました。
私は生き残ります。

 ~明日は新しい、わたしがはじまる~

この歌詞のように。



   と自分に言い聞かせています。

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